祝福4
「クラウドー」
トントンと扉を叩く音に、目が覚めた。
あの声は、デンゼル?
起き上がって扉へと歩き開ける。
予想した通り、デンゼルがいた。
「準備、終わったのか?」
膝をついて視線を合わせた。
上から見下ろすよりも、こちらの方が対等に向かい合っているっていう気がするだろ?
それに、下から見上げるのも辛い体勢だしな。
デンゼルは勢いよく首を縦に振った。
そして満面の笑みを浮かべる。
「終わったよ。早くいこう!マリンもティファも待ってるよ」
「分かった。行こうか」
髪を撫でてから、立ち上がる。
部屋の扉を閉めて、そのまま一階へ降りようとする。だが。
「手、つなぐか?」
左手を差し出す。
一瞬きょとんとした表情をしたが、直ぐに意味を理解して、瞳を輝かせた。
何だか子犬みたいで可愛い。
首が取れるんじゃないかと言うぐらい勢いよく何度も縦に振ったので、それを止めさせる為にも素早く手を繋ぐ。
「ありがとう!クラウド」
「いや」
お礼を言うべきなのは、俺の方だよ。
「……すごいな……」
セブンスヘブンの中へと入れば、豪華な料理の数々が皿に盛られてテーブルの上に置かれていた。
壁にも飾りがされていて、いつもは落ち着いた感じの店内も華やかな印象になっている。
「でしょ?これほとんどマリンとデンゼルが作った料理なの。それに、部屋の飾り付けもね」
「すごい、本当に。ありがとう……マリン、デンゼル」
笑ってお礼を言えば、二人とも顔を赤くして、照れたようにはにかんだ。
「さぁ、主役が揃った事だし。さっそくご飯食べましょうか」
「そうだな。冷めない内に頂こうか」
うん、と元気よく返ってくる返事。
みんな席について、食べ始めた。
食事も終盤になって、お腹も適度に膨れて来た頃。
マリンが落ち着かないように、視線を彷徨わせだした。
そんなマリンの様子をみて、デンゼルも何だかそわそわしだす。
ティファは困ったように笑うだけで、俺に視線を向けてくるだけだ。
これは……俺が訊かなくちゃいけないんだな。
「どうかしたのか?マリン」
「あー、えっと。あのね、クラウド」
どう話したものか、とでも言うように口元に手を当てながら話しだした。
俺は続きを促す為に、首を傾げる。
「クラウドって、甘いもの平気?」
甘いもの?
……ああ、誕生日と言えば……ケーキ、か?
俺が甘いものを食べれるか確認したかったのか?
「ああ。平気だ」
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
「うん。ティファの言った通りだったね」
「でもクラウド。いつもはブラックコーヒーとかお酒とか飲んでるから」
ああ、成程。
デンゼルが疑問に思ったことに答えるべく口を開く。
「ブラックコーヒーは眠気覚ましの為で、お酒は……昔からの習慣、かな。俺は甘いもの、結構好きだよ」
「習慣?……クラウド、甘いもの好きだったんだ」
意外と言う風に呟かれる。
ニブルヘイムは気候の厳しい場所だったから、子供のころからお酒は身体を温める為に口にしていたし、保存がきくように砂糖漬けのお菓子ばかりだったから甘いものも平気だ。
そんなに意外だろうか?
「じゃあ、ケーキ食べてくれる?私とデンゼルとで作ったんだよ!」
マリンが期待の籠った目で俺を見てくる。
断る理由は無いから、勿論。
「ああ。ぜひ食べたいな」
やったーと喜び合う二人に、良かったねと言葉を掛けて温かい視線を向けるティファ。
こんなに喜んでくれるなら俺も嬉しくなる。
マリンとデンゼルが歌を歌い。
出て来たケーキに立てられたロウソクの火を吹き消して、切り分ける。
多少形は歪だが、初めてとは思えない程の出来上がりだった。
「クラウド、楽しかった?」
食事をしてケーキを食べた後……。
デンゼルが真剣な表情で訊いてきた。その言葉にマリンも反応して、様子を窺ってくるのが分かる。
……真剣に、二人なりに考えてお祝いをしてくれたことがすごく伝わった。
「うん……。楽しかったよ……すごく。ありがとう、デンゼル、マリン」
二人を抱きしめて、頬に軽くキスを送る。
何年ぶりだろうか。俺が母さんにされていた事を真似した。
家族などのごく親しい者にだけする、行為。
二人は慣れていないので吃驚したのか、固まったが、直ぐに俺の頬にキスを返してくる。
身体を離すと、マリンもデンゼルも真っ赤な顔をしていた。
この地域ではこんな習慣ないもんな。
ニブルヘイムにも無かったのだろうが、母さんの生まれ故郷ではあったらしい。
「嫌だったか?」
そう聞くと、ぶんぶんと音が鳴るほど勢いよく首が横に振られた。
見事にシンクロしていて思わず感心してしまうほど。
ふっ、と息を軽く吐き出して、今できる最高の笑みを浮かべる。
「ありがとう」
二人は一度互いに顔を見合わせてから、俺に向き直った。
そして、口を揃えてこう言った。
『誕生日おめでとう!クラウド』