1.巻き戻して初めから?

違う、と違和感を感じた。
その瞬間目が覚めた。全身の血が引いていく。どくん、と心臓が大きく跳ねる。

見慣れない天井。
でも、何かが引っ掛かる。
まさか。

ストップでも掛けられたかのようにしばらく硬直した後。
慌てて上半身を起こし、辺りを見回す。

……有り得ない。いや、有り得ない事は無いのか。
意味のない自問自答を繰り返してからやっと、現状を受け入れる。

どう見てもココは、ニブルヘイムの俺が暮らしていた家だ。
まだ幼かった時に見た通りの。あの事件が起こるそれよりも前の。

いつもよりも視線の位置が低く感じて、嫌な予感にとらわれる。
視界に入った自分の手に目をやれば……小さい……。
まるで、子供のような手……というか本当に子供の手だ。
ハッとしてベッドから抜け出す。身体を調べれば、やはり縮んでいた。
いや、この言い方は可笑しいか。子供の身体になった、が正しい。
一通り確認し終わった所で俺は、混乱の真っ只中に嵌り込んだ。

心当たりが無い訳でもない。
というかむしろ、こんなことが出来るのはたった一人しか思い付かない。

「……エアリス、なのか?……」

そう小さな声で問いかけた途端、誰か……いや良く知っている、大切な人が笑った気がした。

―――アナタも、幸せ、ね?

幻聴であろうと確かにそう言葉が聞こえ、色んな感情がごちゃごちゃになり、堪え切れずに涙が目から滑り落ちていく。
引き摺り続ける過去の中で幸せに成り切れなかった大切な人。
全てを整理した時にはもう、謝る事も、話す事も、何も出来ない遠い場所に逝ってしまっていた。それでも俺の傍にはいつもいてくれた。困ったり迷ったりすれば支えてくれた、大事な人達。

「幸せ……」

俺の幸せ?
……俺の、俺にとっての、幸せは……大切な人が生きて幸せを見つけて、笑ってくれること……。なによりも……俺と同じ時間を生きてくれるなら、それ以上に幸せな事なんて、きっとない。

喪わないで済む、未来が欲しい……。

―――大丈夫、アナタの幸せ願うから

―――だから、頑張ろう?


いつかの時……柔らかく温かな空間に迷い込んだ時のような、緩やかな気持ちで目を閉じた。溢れてくる涙が頬を流れ、床に落ちた音が聞こえた瞬間。

微かな笑い声と共に、誰かに優しく背中を押された気がした。