全ての始まり

入学式。
つばさは、新入生代表として口上を述べた。
編入生が務めるのはこの学園始まって以来初めてのことで、その異例さと……翔本人の美貌加減で学校関係者に強烈な印象を刻みつけた。

最高魔法教育研究機関、と言う長ったらしい名前の機関が運営しているこの学園は、特殊な力を持った人物なら、それこそ生まれたばかりの赤ん坊でも受け入れるところだ。
一般とはかなり異なったカリキュラムを組んでいて中等科で一般大学レベルまでの履修を完了する。その為外部受験の場合、編入試験で高得点を取るのは難しいこととなる。
つまり簡単に言うと、編入試験で高得点を取るには一般大学以上の授業内容を理解していないと不可能ということだ。

だから、翔は快挙を成し遂げたのだ。
これだけ騒がれるのも、無理は無いだろう。
只一つ……。問題が有るとすれば。

そのとばっちりが、俺に来てしまうことだろうか。


本当は、この学園を受けるのは俺だけだった。
……家庭の事情って奴。
俺はある事情から実の両親に育児放棄され、ついでに親権も放棄されてしまった。
そこで俺の面倒を見ようと引き取ってくれたのが、実父の両親……俺から見れば父方の祖父母である。
そのある事情と言うのは、俺がアルビノとして生まれてしまったことだ。
純日本人の間に、こんな子が生まれるなんて気味が悪い、と。
特に父の方が、拒絶反応を示したらしい。
こんな子を産むなんてお前はおかしいんじゃないか、と母を責め、その言い争いは段々と発展し、終いには浮気した子じゃないのかなんて言いだして……。
完全に泥沼化したらしい。
昼ドラも真っ青な程のどろどろ具合だったようだ。聞いた話によると。
最終的に離婚という決着はついたが、そんなことになる原因になった俺を引き取って育てたいと思う筈も無く…………。
見兼ねた祖父母が俺を養子として引き取ってくれたのだと。

今でこそ、どうして父が其処まで俺の存在を拒絶したのかの理由が解るが。


幼い時は。


親に捨てられた。


その事実だけしか、解らなかった。


そうして祖父母の元に引き取られ育てて貰った俺は、多少歪まずにはいられなかったものの、これまで順当に成長してきた。
けれど、今年の年初め。…………ついに、祖父が他界してしまった。
祖母は二年前に亡くなってしまっているので、これで俺は頼れる大人は誰もいなくなってしまった訳だ。

実の両親?
そんなの、物心着いた頃には見た事も会った事もないから、他人も同然だし。
それに必要としなかったから名前も連絡先も知らない。もっとも、仮に知っていたとしても頼ることはしないだろうけれど。
嫌い、とかではない。恨んでるとかそういう訳でもない。
本当に見知らぬ他人だから、興味がないんだ。

祖父の遺言により祖父と個人的に親しかった人だけが集められた葬式やら何やらにバタバタと追われ、悲しむ暇すらも無くようやく落ち着いた頃。
ぼんやりと思考が再開しだして。
この先の進路をどうしようと考えた。
俺は所詮孤児で、社会的に見れば絶対に保護者が要る微妙な立場だ。
けれど孤児院などで保護されるには年齢が微妙……。

そんな時、ある人物が、家を訪れた。


……その人物こそが、この魔法学校の校長だった訳だ。

その時に、色々とあったのだけど、面倒なのでバッサリ端折る。
まぁとにかく、俺はこの学園に保護されたんだ。
そして、間が悪く翔と壮樹そうきに、俺がこの学園に入学するということを知られ、異例の三人同時編入と言うことになってしまった。


…………そんな経緯が有った時点で、もうすでに平穏は遠退いてるなぁと解ってはいたのだが……。
やっぱりこんな現状になってしまうと、溜め息しか出ない。



本当、平穏って何だっけ?